Rupert Neve 氏が設計した500シリーズモジュール
Rupert Neve 氏より:
「実用的な500シリーズモジュールを開発することはそんなに難しいものではなかったのですが、電流、電圧、スペースの制約上、500シリーズ以外の製品の品質と同等になるよう設計をすることはちょっとした挑戦でした。
私たちは、この500シリーズを納得のいくレベルで完成させるために、数々のトランスフォーマーや回路設計を試しました。結果、ヘッドルームに関してはやむを得ない妥協も少しばかり強いられましたが、通常の Portico シリーズと比較してもほぼ遜色ないレベルの存在感と心地よさを実現した500シリーズが生まれました。
これは近年のハイクォリティスタジオに最適で、そのサウンドとともに利便性とスペースファクターがもたらす恩恵をすぐに実感することができるでしょう。」
入力部
511 はマイクとライン両方のソースを扱うことができます(ライン入力を選択する場合は48Vファンタム電源がオフになっていることを確認してください!)。
マイクロフォン入力はパッドなしで最大22dBuの信号を扱い、10kΩ、ノンリアクティブインプットレジスタンス仕様となっています。"T.L.A." (アンプをトランスフォーマーのように扱う構成) を用いたこのプリアンプは、様々なスタジオマイクロフォン、特に低価格のマイクロフォンに見られるハイインピーダンスものであっても本来備える性能を十二分に引き出すことができます。
ゲインコントロールは66dBの範囲内を6dBステップごとに設定でき、±6dBのトリムを使えばさらに的確な調整も可能です。
他にも、スタジオコンデンサーマイクやパワードタイプのDIに+48Vを供給するファンタム電源、20 ~ 250Hzの周波数設定によって不要な低域を的確にカット/軽減するトランジェントに最適化されたハイパスフィルターも装備しています。
テクスチャーコントロール
"テクスチャー" は、Portico II Channel において注目されている新機能の一つで、この 511 にも実装されています。
これはオリジナルの Portico シリーズマイクプリアンプに装備された定評ある "シルク" 回路をさらに発展させたもので、ソース素材に含まれている音楽的な倍音成分を操作、調整する機能となり、その効果と恩恵は計り知れないものがあります。ひとつのノブ操作だけで、耳でかろうじて確認できる微細なニュアンスから劇的な効果までを思いのままに付加することができます。
シルクは、出力トランスのネガティブフィードバックを低減し、周波数特性を Rupert Neve 氏が過去に設計したビンテージ機器に近づける作用をします。511のシルク "Red" モードは、ソース素材の中高から高域の倍音を強調し、サウンドに "輝き" を与えます。511 でさらに進化したテクスチャーコントロールは、オリジナルのシルクコントロールよりも最大で10倍のハーモニックディトーションを意図的に加えることができます。
この機能はこれまでの一般的な倍音コントロールのようにソース素材を破壊することはなく、音質と音楽的な整合性を保ったまま処理を行うように設計されています。Rupert Neve Designs チームは、この機能がどのような楽曲、楽器に対しても抜群の効果をもたらし、音質劣化を気にすることなく積極的に使っていただけるものと確信しています。
低ノイズ、低歪オペレーション
511を設計した際に最も注力したのは、可能な限りノイズと不要なハーモニックディトーションを抑えることでした。慎重を重ねたシグナルパスとクラスAオペレーションの回路により、511 は特徴的な心地良さと囁くような静けさを備えています。
トランスフォーマー入出力の利点
トランスフォーマーに関する議論はここでは場違いであり、不適切です。しかし単なるひとつの要素ではなく、設計全体を含め、それがどんなことをもたらすのか、どのような利点があるのかを知ることは有益なことです。
音質に関する回路設計の細かなノウハウは徐々に明白になってきました。例えば、20kHz以上の周波数は確実に人間の音質に関する知覚に影響することが研究によって知られるようになりました。しかし、この科学的根拠によって証明される以前から、優れたミュージシャンやエンジニア達は機器の技術計測結果が同じであったとしても、実際に耳にするサウンドが全く異なることを知っていました。
音楽的な調和が取れない奇数倍音は微量であっても、音質に致命的な影響を与える場合があります。また、シグナルパスが外来ノイズや干渉を受けた場合、シグナルチェーン全体の質を著しく損なうことがあります。特に多くのコントロールルームでは、外的要因対策が不十分なアウトボード機器が使われています。このような機器のグランド処理は大抵貧弱で、深刻な問題を引き起こす可能性を持っています。
現代の機器ではコスト面や利便性のために”電子バランス”回路を採用しています。この仕様の回路はベンチマークテストにおいて、とても良い計測値が得られますが、作業環境によってはその測定通りの結果や十分なパフォーマンスを発揮するとは限りません。